the BEST 3 . カンレキ ∴ ソゲキ

今日、10月7日は母の誕生日。

しかも一つの節目となる60歳の誕生日。
いわゆる還暦である。

言うまでもなく孝行息子の僕はお祝いを買いに出ていた。

余談になるが、ウチの母はどうやら自分の誕生日を正確に覚えていないという
ある意味で何よりも豪快な人である。
「6日か7日じゃない?」という何ともアバウトで、うろ覚え丸出しの母が
「何となく7日で」と言い出した時には
幼稚園生であった僕も流石に青ざめた記憶がある。

この母にして我あり。

そんな豪気な母が還暦。

お祝いをしてやらなくってどうするといった勢いで僕は買出しに出かけた。

 

女性モノのプレゼントなんて、しかも母親の還暦祝いなんか何を買っていいものやら全く見当もつかないので
急遽、彼女ちゃんに付き合ってもらう事にした。

ウチの母と仲のイイ彼女ちゃんは快くオッケーしてくれ、
僕はとても心強い仲間を得た気持ちでイッパイであった。

そして、そんな彼女ちゃんの的確かつナイス判断にて、
赤っぽいショールにプレゼントは決定。

流石、女性である。

僕一人では何時間買い物に彷徨った所でこのような『答え』が出るでもなく、
「逆にこんなんがイイんじゃないの?逆に。」
と、

『空ビデオテープ 5本セット』
とかを買ってしまいそうなノリがある。

確実に喜ばない。

むしろ嫌がらせだ。

 

「なんてステキな案だ」と、一も二もなく飛びついた僕。

そんな訳で、良いものをゲットすべく二人で桜木町周辺を歩いていた時、
僕のやや後方を歩いている彼女ちゃんの更に後方から

 

 

 

パコーン!!

 

と、謎の炸裂音が突然鳴り響いた。

 

 

「野生の感」アビリティを生まれもって持ち合わせている彼女ちゃんは
炸裂音の後に聞こえてくる

 

シャー!!!

 

と徐々にこちらに近付いてくる音に危険を察知し

僕をその場に残し
横っ飛びで危険ポイントから緊急脱出。

 

僕は炸裂音には気付いていたが、その後の音にはどうする事も出来ず、ただ立ちすくんでいた。

しばらくすると「それ」はシャー音とともに
もの凄いスピードで、もの凄い回転で、
僕のすぐ足元を通り過ぎて行った。

 

それ」を見た僕はパニックに陥った。

 

何だ?!一体何が起こった?!

何故、こんなモノがえらいスピードでこっちに滑ってくる?!

有り得ない。

 

困惑した僕はとりあえず振り返り、彼女ちゃんを見た。

彼女ちゃんは上や後ろをキョロキョロと
動物的な動きで観察している。

 

尻尾ヒゲがピンと立っている。(ウソ)

こんな時、不用意に彼女ちゃんに近付けば
確実に引っかかれる or 噛み付かれる。

 

僕は戦闘態勢の彼女ちゃんを刺激しないように厳重な注意をはらって声をかけた。

僕 「今のナニ?大丈夫だった?」

彼女ちゃん 「・・・・・そ」

僕 「・・・そ?」

 

 

彼女ちゃん 「そ、狙撃された。

僕 「イヤ、狙撃じゃないよ。ないから。

彼女ちゃん 「うわあコワイ。これ、頭とかに当たってたらやばかったんじゃない?
死んでた?やっぱ狙撃だよ。」

僕 「誰かに狙われてんの?狙撃じゃないってば。
でも確かにやばかったよな・・・コレが直撃してたら。」

 

僕は斜め前方に転がってる「それ」を拾い上げた。

 

 

 

携帯電話の液晶部を。
(折りたたみ携帯の上半分)

 

 

彼女ちゃんが狙撃されたと思われる(思ってない)場所から少し離れた場所に転がる携帯電話の「液晶部」。

周りを見渡すと、近くには
「ボタン部分(下半分)」と「電池パック」が散乱している。

凶器と思われる携帯電話は、彼女ちゃんの後方で炸裂し三分割されたのであろう。

これがもし、頭にでも当たっていたら致命傷になっていたと思われる。

「母の誕生日」、「桜木町」、「狙撃」、「携帯電話」、
「動物的直感」、「僕のラバーソール(3cm)」・・・

これらのキーワードが紡ぎだす真実・・・

 

 

・・・・・
謎は全て解けた。
(ウソ)

 

そんな金田一少年チックな妄想を思い描きながら「液晶部」を手に佇んでいると、
若い男子が「ボタン部」と「電池パック」を颯爽と拾い、無表情な顔で僕の横を通り過ぎていく。

その直後、僕は後ろから女子の声を聞いた。

女子 「・・・・・スイマセン。」

女子は僕に手を出している。

僕 「(握手?)」

女子 「・・・・・・・スイマセン。」

ああ、と思い僕は女子に携帯液晶部を渡した。
女子は何も言わずに早足で歩いて行ってしまった。

 

困惑している僕の元に彼女ちゃんがやってきてこう言った。

彼女ちゃん 「狙撃ではなかったんだね。」

僕 「うん。狙撃ではないよね。ハナっから。

彼女ちゃん 「ケンカかなあ?あれ、他の部分持ってったの彼氏でしょ?多分。」

僕 「マジでか?!」

彼女ちゃん 「だって、男の子の後を追っかけてったよ。」

僕 「それじゃあ何かい?奴さん達はケンカをして、
口論になった末に、
攻撃目標ロックオン
って感じで携帯を投げ、破壊したって事かしら?」

彼女ちゃん 「うーん、多分。
さっき女の子が男の子に液晶部を渡そうとしてたから、
きっと彼氏がケンカの最中に感情的になって携帯を叩きつけたんだよ。」

 

僕は奴さん達が行ってしまった方向に目を凝らしてみた。

 

 

って言うか何にも見えねえ。
豆粒以下。

 

彼女ちゃんの目はジャングルの奥深くまで見渡す事が可能であり、
自分に対する危険が遠ざかっていくまで
その目標に対し、観察を怠らないという習性があるのだ。

あの豆粒以下の動きを完全に見切っていた彼女ちゃんに少し恐怖を感じた僕は振り返った。

 

 

彼女ちゃんの尻尾がパタパタと動いている。

嬉しそうだ。

って言うか好奇心が前面に押し出されている。

 

僕 「ヨシ、つけるぞ。

僕等は奴さん達を尾行する方向で歩を進める。

 

 

ケンカをしたであろうと思われる男女の流れ弾(携帯電話)をくらいそうになった僕等。
謎が謎を呼ぶミステリー。

次、いつ携帯が火を吹くかわからない。
危険だ。非常に危険だ。

野次馬根性丸出しで、問題の男女を尾行し始めた僕等に身の保障はないのであった。

 

僕 「しかしだな、一体何があったと言うのだろう?」

彼女ちゃん 「イヤ、だからケンカでしょ?」

僕 「ケンカとは言っても色々あるじゃない。
しかもだよ?
携帯を叩き壊す程のショック、もしくはキレ加減があったって事でしょ?」

彼女ちゃん 「女の子、可愛かったのにねえ。」

僕 「イヤ、可愛ければ何事も許されると思うでない。」

彼女ちゃん 「だって、アナタなら許すでしょ?」

僕 「許すね。

 

なんて事をボソボソと話しながら、男女と一定の距離を保つ為、早や歩きになってみたり店を覗くフリをしてみたり。

僕等の顔が犯人(?)に割れている為、尋常ではない程の距離を保っていたので
僕は度々、男女を見失った。

 

だが、彼女ちゃんのジャングル・アイ
ピンと立った長めのヒゲ
男女の姿を見失う事は無く
確実に一定の距離を保つ事が約束されていた。

何と心強い存在なのか。(笑)

 

彼女ちゃん 「アレだ。多分、彼女の浮気がバレた。
さっき女の子、謝ってたもん。」

僕 「何故、それが見えるのかが不思議でしょうがない。
まあ、いいや。
そっか、女の子が謝ってたんだね。
彼氏が彼女に怒って、口ごたえされた為に持っていた携帯を
ドーン!!か。」

彼女ちゃん 「で、私達にボーンだよ。きっと。」

僕 「イヤ、待て。それは辻褄が合わないぞ。
はたしてケンカの最中に携帯なんかを持ってるだろうか?
そんな白熱の展開なのに携帯片手に、はおかしくない?」

彼女ちゃん 「うーん、そうかな?」

僕 「あ、わかった。謎は全て解けた!
真実いつも一つ!だ!」

彼女ちゃん 「ハイハイ。」

僕 「聞いて驚けよ?きっとこうだ。
女の子が日頃から不信に思っていた彼氏の女の影。
それを確かめる為に携帯電話を取り上げる。
メモリーをチェックしようとしたその矢先、彼氏が携帯を強奪。
そして、手を滑らせたように見せかけて、携帯を床に
ドーン!!
これでメモリーは消滅。
更に駄目押しで逆ギレ。
『お前が変な事するから携帯が壊れちゃったじゃねーかよ!』
なんつって、そそくさと逃げた。
どうだ!コレ!」

彼女ちゃん 「だったら女の子、謝る必要ないじゃん。」

僕 「イヤ、だからさ、その逆ギレの効果がテキメンにだな」

彼女ちゃん 「待った!!二人が消えた!!あそこの角!
走れ!!

 

彼女ちゃんはチーターさながらの動きでしなやかに跳んだ。
僕も持ち前のダッシュ力で彼女ちゃんを追いかけたので何とか追いつく事が出来た。

すぐそこには、さっき彼女ちゃんが指差した角がある。
僕等はスピードを落として、何気なく角に近付いた。

そこはエレベーターのホールになっていた。

二つあるエレベーターのドアの間に二人は居た。

うつむき加減で何かを話している。

二人の手には所在なげに携帯の破片達が握り締められている。

女の子は今にも泣き出しそうだった。

 

僕等は何とも言えない気持ちになり、無言でその場を通り過ぎた。

 

しばらく歩いていると彼女ちゃんが声を出した。

彼女ちゃん 「・・・ねえ。」

僕 「ん?」

彼女ちゃん 「あの二人は仲直りするのかな?」

僕 「うーん・・・どうかね?
携帯を叩き壊すくらいの事だったんだろうし難しいかもね。
でも、仲直り出来るといいねえ。」

彼女ちゃん 「ん。」

僕 「ん。」

彼女ちゃん 「・・・・・ねえ。」

僕 「ん?」

 

 

 

彼女ちゃん 「あの携帯、くっつくかな?

 

 

 

僕 「絶対くっつかないね。

 

そんな事を言いながら僕等は買い物に戻った。

 

ケンカの末に携帯を破壊した男女。

必死に彼氏を追いかける彼女。

エレベーターホール、涙、壊れた携帯。

果たして彼女等は仲直りできるのか?

はたまた、壊れてしまった携帯のように
彼女等の仲は二度と元には戻らないのであろうか?

 

僕達は心の片隅に彼等の事を気にしつつ、買い物に戻った。

そう、今日は母の還暦祝いを買う目的で此処に居るのだ。

決して尾行が目的ではない。

って言うかそんなもん予定に組み込める訳がない。

そんな訳で僕達は桜木町から横浜へと場所を移した。
後ろ髪を引かれつつも。

 

横浜に移ってからはすっかり彼等の事は忘れてしまった。
それよりもプレゼントの選別に頭を悩ませていたからだ。

赤いショール。
それはとてもステキな選択だ。
しかし、コレが中々難しい。
オッ!というモノが見つからない。
というよりも、ショールってモノが全般的に存在しない。
数少ないアイテムの中からの選択。
それは困難を極めた。

僕 「赤か・・・これがいいんじゃなかろうか?」

彼女ちゃん 「うーん・・・これはちょっと重くない?
ショールというよりも膝掛けっぽいよ。」

僕 「そうっすか。」

彼女ちゃん 「こんな感じは?」

僕 「うーん・・・普通?」

彼女ちゃん 「普通でいいじゃん。」

僕 「イヤ、なんかさあ、『バリ』っつーの?
『パリ』っつーか、こう『シュッ』とした感じでさ・・・」

彼女ちゃん 「んなもんナイね。

僕 「ナイっすか。」

店員 「どんなものをお探しですか?」

彼女ちゃん 「赤っぽいのを探しているんですが。」

店員 「還暦のお祝いか何かですか?」

僕 「そうっす。」

店員 「こちらなんかいかがでしょう?
とても軽いんですよ。こちらのストール。

彼女 「え?ストール?・・・ストール?・・・ショール?」

僕 「ああ、色もいいね。軽いし。
貴女、ちょっと巻いてみて。」

彼女ちゃん 「ス・・・ショ?ねえ、どっちなの?
って言うかストールって何?」

僕 「ああ、とても良いねえ。
んんん・・・でも値段がなあ・・・チト高い。」

彼女ちゃん 「ねえ?ストールなの?ショールなの?どっちなの?」

僕 「ええい!わかった!これを下さい!」

彼女ちゃん 「ねえったら!どっちなのよ?!
ストールって何?!意味は?!意味は?!」

 

買い物を無事に済ませた僕等は帰る前にティーブレイク。
駅前の喫茶店に腰をおろした。

僕 「今日はアリガトね。付き合ってくれて。」

彼女ちゃん 「ストール・・・・ショール・・・・スト?・・・イヤ、ショール・・・・?

僕 「わかったわかった。今、調べるからチョット待って。」

僕は携帯電話のiモードで辞書を開く。

僕 「ストールっと。お!出たよ。
えー、ストール。意味は・・・
『女性用の肩掛け』
だって。あってんじゃん。
ショールと一緒の意味じゃん。」

彼女ちゃん 「でっしょー!!?ああ、良かった。ホッとしたよ!
あの店員さんめー。
洒落た言い方しやがって。

僕 「洒落てるのかしら?
ま、それはイイとして、ちょっとトイレね。」

彼女ちゃん 「ん。」

 

僕はトイレを済ませて席に戻った。

僕 「フイーっと・・・・オオウっ!!

 

彼女ちゃんの尻尾
スゴイ勢いでバタバタと振られている。

ヒゲピーンだ。

 

これは確実に何かがあった。
僕がトイレに行ってる間に何かがあったのだ。

それも超ド級の何かが。

 

僕 「ど、どうした?」

彼女ちゃん 「大変だ!ビックリだよ!
今ね、今アナタがトイレに行ってる時にね、見たんだよ。
あそこに見たんだよ!」

僕 「何を?」

 

彼女ちゃん 「さっきの男女だよ!

僕 「マジでか!!

彼女ちゃん 「仲直りしてた!!

僕 「一緒に歩いてたの?!」

彼女ちゃん 「そーう!ヤッタね!良かったね!」

僕 「うんうん。良かったねえ。」

彼女ちゃん 「ああ・・・良かったよ・・・って
アアっ!!

僕 「今度は何??!」

彼女ちゃん 「二人はアッチに歩いてったよ!って事は・・・・」

僕 「アッチ?ヨドバシカメラ方面か・・・・って事はー!!

携帯か!!
携帯買うんか!!
買いに行くんかー!!

 

彼女ちゃん 「ヨシ!走れー!!

 

僕 「おう!!

 

 

僕等はお茶をマッハで飲み干し店を出て走った。
チーターも真っ青なスピードで。

 

 

 

 

2002年10月7日〜12日までの『日々是心意気』より抜粋。再編集。

編集後記

今、読み返してみると、
『すごいウソみたいなマジで本当のお話』

基本的に創作系以外はマジ話で構成されてます。当サイト『7Hh』。
ま、「現実は小説より奇なり」って感じでしょうか。
今の所、人生に飽きてないし。(笑)

この『狙撃編』には「エピローグ」が存在しております。
今回、収録しようと思いましたが止めておきました。
気になる方は『過去の心意気』からどうぞ。
ホント、オチのある人生ってイヤねー。(笑)

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