13. エイドリアン

長々と続いてきた連作もいよいよ終盤戦。
無理して読まずに休憩などを挟め。(笑)

 

重たい足取りで向かった面接会場。

電車の中ではきっと 「向井千秋向井千秋向井千秋向井千秋向井千秋・・・」 と
ブツブツ呟いていただろう。

まさしく言霊。(?)

そう言や、「ツブヤキシロー」 って何処へ?まあ良いが。

 

面接場所に集まった学生およそ20人

単純計算で、と言うか確実に20倍率

そして僕の面接予想人数(希望的観測人数とも言う)の4倍

脳内のコンピューターが刹那の瞬間(0.5秒)に弾き出した
「ヤバイぞお前率」

フォーナイン

(99.99。0.01は真心)

 

一人一人面接を受けるので、残りの人達は待合室に放り込まれる。

待合室の僕の周りの人達は何故か自信アリげだ。

新聞か?!新聞メチャ読んできたのか??!

その時、自分がほぼ丸腰でスラム街に入ってきてしまった事を知った。

 

僕の手持ちの武器は

スペースシャトルネタただ一つのみ。

 

周りの人が同い年のはずなのに5,6コ年上に見える。
何て心細いんだ。泣きそうだよ。
僕ったら一体この一月何やってたんだ?
何で新聞読まなかったんだよ。

あ、そう言えば2週間前、近所の川で投網したっけ。投網禁止って書いてあったけど。
魚とゴミがピッタリ1対1で獲れた時は笑ったなあ。ウフフ。
その後、近所のオッサンに怒られて
そのオッサンに投網投げようとした友人がいたっけ。フハハ。

 

イカン!もっと集中しないと!

もうすぐ面接だぞ!
アタフタしないように今こそイメージトレーニングするんだ。
ああ、緊張する。

僕は緊張すると欠伸が出る。しかも連発で。

大欠伸をしながら待つ。ひたすら自分の番が来るまで待つ。

 

その時、待合室の推定24歳の学生さん(イメージ)の1人が僕に言ってきた。

24歳学生 「スゴク余裕あるんですね。」

 

そう、僕のこの「緊張すると欠伸が出るスタイルは他人の目から見ると

 

余裕すぎて欠伸が出ちまうぜスタイル

に見られがちである。

 

24歳学生 「俺なんて不安でイッパイですよ。」

21歳女学生(イメージ) 「あ、アタシもですー。もうさっきから緊張しっぱなし。」

 

そうだったのか。みんな僕と同様に緊張していたのだ。
疑心暗鬼にかかっていた僕は自分だけが緊張していたのだと思っていた。

僕の欠伸から発生したその会話から、待合室の人間達は

「周りの人間は全員敵!心を許しちゃいけない」

な感じから一気に

「苦楽を共にする我が同胞」

といった感じに和やかになっていった。

 

21歳女学生(アクマでイメージ) 「ねえ、そろそろだけど緊張してないの?」

と僕に聞いてきた。

僕の欠伸から生まれたこの輪。(自信過剰)
モチロン僕は緊張の真っ只中である。

いやあ、緊張してるよ。実際、何にもやってきてないんだ。ヤバイよ。
と、言おうと思っていたのだが

 

僕 「ん?全然。緊張してたら失敗しそうじゃん?余裕、余裕。」

なんて

心にも無い事言ってのけたよ。

 

ここ一番の瞬発力みせちゃったよ。無意識に。

これも偏に僕が作ってしまった(超自意識過剰)輪を乱したくなかったからであろう。
意味はよくわからないが。

 

 

 

そして、遂に僕の面接の番がやってきた。

同胞達からの 「頑張ってね」 「行ってらっしゃい」 等の声援を受け、僕は震える足を見えないようにしながら

 

軽く右手を同胞達に上げた。(笑)

 

 

いざ面接の場所に挑んだ僕の膝の上のグーは汗でネチョネチョだった。

心の中は

スペースシャトルの話題来い!
スペースシャトルの話題来い!」

と念じていたが、全然普通の質問だけで、

 

スペースシャトルの字も出ずに

わずか5分足らずで終わってしまった。

 

今となっちゃあ何聞かれたかなんて憶えていません。
イッパイイッパイだったから。

 

面接の終わった僕は待合室に戻り、自分の荷物をまとめ帰る準備をしていた。

まだ面接の番が来ない同胞達は「どうだった?!」、「何聞かれた?!」
と聞いてきたが正直”真っ白になるまで燃え尽きてしまった”僕は

 

軽く右手を上げ、その場を去った。

 

 

 

帰りの電車の中では足元を見つめながらこぼれ落ちてきそうになる涙を必死に堪えていた。

頭の中では『♪涙くんサヨナラがリフレインしている。

「なーみだくんサヨナーラ。サヨーナラなみだくん。また会ーう日まーでー」

 

 

 

面接落ちたかもしれないですぜ、ボス。

 

 

奇跡を信じたスペースシャトルネタも振られず、それにばかり集中していた為、
何を聞かれて、何を答えたのかも憶えていないし。

あ、でも面接官に

 

ツッコミを入れたのはウッスラ憶えてるよ。

 

 

何か口では言い表せない表情をしていたよ。

 

 

 

それってダメなんじゃないですか?

ボス。

 

 

そんな傷心旅行帰りのような僕は真っ直ぐ家に帰り、
再放送の 「あぶない刑事」 を膝を抱えて見ていた。

「・・・やっぱり刑事にでもなろうかしら?」

なんて妄想の世界に入りかけた瞬間、自宅の電話がけたたましく鳴った。

 

「はい、港署。」

 

と言いそうになったが堪えた。

多分、友達の誰かだろう。言っても全く問題ないが、その時は堪えた。
ブルーだったからであろうか。

 

僕 「もしもし。」

相手 「あ、今日は面接どうもお疲れ様でした。
結果の方が出たので御電話差し上げました。」

僕 「は?はあ。(いまいちよく理解していない)」

相手 「それで結果の方ですが・・・」

 

僕 「結果って結果ですか??!!(ようやく理解)」

相手 「はい。結果の方をお伝えします。今回はですね・・・・・」

僕 「ハ、ハイ。
もったいぶるな!!殺すなら一思いに殺ってくんな!!)」

 

相手 「・・・・さ」

 

僕 「(サンコンさん??!(意味不明))

 

 

 

 

相手 「採用させて頂く事になりました。おめでとうございます。
それでですね、入社説明会というのをやりますので○月の○日にですね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

僕 エイドリアーン!!!

 

 

そんな感じで面接に合格してしまいました。

不思議なものです。

本人、全く手ごたえ感じてなかったのに。(笑)

 

ただ、今思える事は

あの時、「はい、港署」と言わなくて本当に良かった。ということ。(笑)

しかし、安心した僕がバカだった。

 

まさか入社を目前にして

あんな核爆発級の事件に出会う事となるとは。

 

次回最終回。(やっと)

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