15. ヨルジハンキ

自動販売機。

 

それは希望の光。

闇の中に差した一筋の光明。

いくら時間が経とうとも、雨の日も風の日も、
喉の乾きを訴える者を癒す為、今日もそこかしこに存在し続け
両の手を広げ、僅かな小銭のみで分け隔てなく助けてくれる、ある意味救世主。

 

 

エロ自動販売機。

 

それはロマン。

闇の中でのみ光を放つ流星。謎の発光体。

雨の日も風の日も、日が落ちないと何を売っているのかもわからず、
乾きを訴える者に悪魔の誘いをニヤニヤと強烈なインパクトで訴える為、
今日もそこかしこにヒッソリと存在し続け

プチボッタクリな感じで購入する者の勇気を試す、

ある意味堕天使。

 

 

男性諸君にはお馴染みの 「エロ自動販売機」 (以下、夜自販機と書す) だが、
馴染みのない女性諸君の為の説明。

 

一見、大きな自動販売機って感じだが、昼時(明るい時間)に見ると
銀色に鈍く光る薄い紙が商品サンプルの上に被さっているので何を売っているか見えない。

しかし夜時(暗い時間)になると、その紙の裏側からライトアップされ、商品サンプルが見えるようになる。

もちろん昼時に見せられないような心ときめく様な本やビデオがそこには並んでいる。

 

大概ヒッソリとした場所や秘密基地の様な場所に設置されている。

それは、本屋さんやレンタルビデオ屋さんでは赤面必至必死な方々が落ち着ける為の配慮であろう。

 

しかし、そんなウマイ話がこの世にゴロゴロと転がっている筈もなく、買ってみたりすると

定価よりも高かったり、超ハズレだったりする。

商品サンプルと同じ物が出てくる事の方が珍しい。といった世界である。

 

 

そんな夜自販機の現状を知っていれば購入する者もいないだろう。

実際、血気盛んな高校時代の僕も、噂には聞いていた為「夜自販機」未経験であった。

 

しかし、そんな黄金時代(?)も一人の友人の吉報によって終わりを告げる。

 

 

その友人S(現在、芸人として活動中。きっと名前ぐらいは聞いた事あるかも。)が言うには、

 

○○駅、裏側(ほぼスラム)に
超良心的な夜自販機を発見!
至急、確認に向かわれよ!

 

仲間全員がマユツバ顔でSの顔を見ると

「まあ、信じないならイイけどー。ケケケ」

って感じで自信タップリなので半信半疑ながらも僕は一人の友人を偵察に出した。

 

約20分後、

 

 

戻って来た偵察部隊Tの手にはロマン溢るるビデオ
シッカリと握られていた。

 

彼の表情からはスッカリ自慢の笑顔が消えており、驚愕の顔で青ざめていた。

 

「まさか、あんなパラダイスがこんな近くに存在していたなんて・・・・」

 

我を失っている偵察にピンタをくらわし現実に引き戻した後、

「一体何があったんだ?!詳しく戦況を説明しろ!!」と尋問した所、

彼はとんでもない楽園を目の当たりにしたらしい。

 

 

有名AV女優(美人)出演ビデオ多数

 

800円也。

 

 

全員 「マジっすか?!

 

そこにいる全員にマッハで聞かれた彼は不安と期待でイッパイの表情で全員を見ながら、
その手にシッカリと握られていたビデオをビデオデッキに挿入する。

前述の説明の通り、偽モノの可能性は極めて高い。

全員、額にアブラ汗を浮かべながらTVのモニターにガブリ寄り。

その刹那、映像が出た。

 

 

 

 

 

 

全員、夜自販機に向かう決意を胸に刻み付け、

小さくガッツポーズ。

 

決起集会はもちろん今夜だ。

万全の状態で作戦を遂行する為、細かな段取りを決めなくてはならない。

それには、戦場に自らの危険を伴わず赴いた SとTから情報を収集しなければなるまい。

 

しかし、その尋問で得た情報は全員を震撼させるには充分であった。

 

 

S 「駅から近いのでスラムと言えども、とても人の目は避けられない。

 

T 「買った瞬間、異様にビックな音が出て
回りの人の注目を集める事必至。

 

僕 「何でオマエラは平気な顔をして買えたのかが不思議であり
羨ましい限り。

 

最後の心の叫びは無視するとして、これは中々困難な道のりである。

パラダイスは駅周辺に位置し、夜自販機の購入ボタンを押した瞬間
「ビー」だか、「ブー」だかのビックな音が出て

オーディエンスにモテモテになる。

 

策を練りに練らねば全滅は目に見えている。

 

オーディエンスが寝静まった夜中に決行するか?

いや、それは危険だ。
夜中のスラムはヤバすぎる。何が起きるかわからない。

しかも夜自販機の為に夜中集合し、購入後

きっと、購入者全員がすぐ自宅へ帰る事であろう。

 

ギラギラした自分や仲間達を目の当たりにするのは最悪だ。

 

変装?
サングラスが関の山か。

そんな集団が夜自販機の前に集まったら、逆に注目を集める事であろう。

 

ならジャンケン生贄制度(負けた者が一人だけ戦地へ赴く。)を実施するか?

それもイカン。

だって僕ったらジャンケン弱いし。

7割方負ける自信アリ。

 

 

じゃあ、どうすればいいんだい?!

 

目の前にオアシスがあるのに容易に飛び込めない葛藤。

問題点は次の通り

1・自分達のプライドの為、夜中には行動出来ない。
2・場所が自宅近辺なので注目される事は避けたい。
3・みんなで夢を実現させたい。

こんな夢のようなお話は不可能犯罪なのか・・・?
全員、ない知恵をフルボリュームし、あーでもない、こーでもない、と議論を交わしていた。

 

 

 

そして、それから数時間経過した午後7時、

 

パラダイス前にバイクへまたがったまま
フルフェイスヘルメットを断固として脱ごうとしない
奇妙な若者数名が

自信マンマンの不敵な笑み
集合していた。

 

 

 

そう、ここに集まった集団は

放課後ヘルメット倶楽部

(30分前に発足)

勇者達である。

 

 

 

それは数時間に及ぶ議論に終止符を打った「S」の提案であった。

 

S 「ヘルメットは?」

全員 「それだ!!!(Sを指差しながら)」

 

変装しなくても顔が判りづらいし、自然だ。
しかも、バイクから降りずに作戦実行(商品購入)すれば迅速に離脱できる。
立つ鳥、後を濁さず。(笑)

なんてナチュラルな作戦であろうか!

Sの提案が出され、全員がスタンディングオベーションで歓迎。
(ここまで5分経過)

拍手が鳴り止まないうちに我先にと争うように、以前から集合場所と化していたTの家(団地。4階)の
玄関を出、階段を滑り下りる。
(ここまで8分経過)

各員、自分のバイクにまたがりエンジンをかける。

数名、作戦の命ともいえるヘルメットを T宅にウッカリ忘れて降りてきた為、
階段を駆け上がるマヌケっぷりを披露し、
4階までの階段を上りながら合間合間に怒号や罵声が飛び交う。
(ここまで12分経過)

全員の準備が整うのとほぼ同時にエンジン全開でパラダイスへ。

約2名(SとT)ジリジリと距離を離され、一時完全に視界から消える。
(ここまで21分経過)

途中、万全の用意を期す為、コンビニにて集団で小銭に両替。

ようやく追いついた約2名は半ベソかきながらコンビニへ入店。
と同時に我々へドロップキック。
(ここまで26分経過)

小銭を財布に入れるのももどかしく、左手に小銭を握り締めながら再びエンジン全開。
目的地が見える位置まで到着。そして不敵な笑み。
(ここまで30分)

 

 

僕 「あれが例のパラダイスへの入り口だな?」

エンジンを切らずにパラダイスを眺めながらSに聞く。

ここはまだセーフティーゾーンだ。

S 「そうだ。禁断の果実への門はすぐそこだ。」

僕 「この後、どうするんだ?首領(ドン)よ。

 

 

 

S 「これが見本だ!俺の生き様、見晒せ!!!」

 

 

唐突にアクセルオン。迷うことなく夜自販機前へ。
すかさず手に握られた小銭を投入。商品全体を見回したと思った瞬間、
購入ボタンをスチャっと押す。

「ビー」
という購入確認音は絶妙なタイミングでふかされたエンジン音に掻き消され
そのエンジン音と共にSも消えていた。
言葉を失っている我々の後方からエンジン音が聞こえる。
Sだ。

Sのバイクが何処をどう通ったのか、初めて通る裏道を見事に迂回して戻って来たのである。

 

なんて鮮やかなんだ・・・

 

完全犯罪寸前じゃないっスか!首領(ドン)!!

 

S 「まあ、こんなもんだ。」

 

フウっと爽やかな息を漏らすSは
『半ベソでドロップキック』から一気に『カリスマ』へと昇進した。

出世魚もビックリ。

誰も 「初めてのチャレンジだったくせに、何がこんなもんだ。だ!」 とは
思ってはいたが突っ込まなかった。それ程、鮮やかだったのである。

そんな”カリスマ”Sを見習い、各々何かを叫んだ後、見よう見真似で作戦を遂行。

次々と夜自販機にバイクが放たれ、少し離れた場所にバイクが戻ってくる、という
とても不自然な空間がそこには存在していた。

 

僕 「よし!全員戻ったな!作戦成功だ!」

友人M 「Tがまだ戻って来てねえ!」

僕 「何ィ!どうしますか?!首領(ドン)?

 

 

 

 

S 「全速前進!!」

 

 

ここ一番で野生の勘を働かせられず、迂回路の選択に失敗し、完全に迷ったTは
既にTを除く全員が帰って来ていた集合場所(Tの自宅)におよそ10分後に戻って来た。

直後、半ベソでドロップキック。

Tをなだめ、全員で購入商品の確認。

内、3人ののビデオが同じ物である事が判明。

 

打ち合わせも何もしていなかったのでダブるのは当然と言えば当然であった。

しかし我々はそんな事ではへこたれず、初陣での反省会を開き
第二回目の作戦(2週間後)は我々の完全勝利とあいなった。

 

噂は噂を呼び、『放課後ヘルメット倶楽部』は僕の高校で知る人ぞ知る
有名倶楽部となってしまった。

もちろん入部希望者多数。

 

僕 「どうします?大首領(ビック・ドン)?

S 「では、こういう条件を出そう。」

 

 

放課後ヘルメット倶楽部、入部の条件。

1. 自分のバイクを持っている。
(排気音が爆音、バックミラーが手の形をしていてピースをしているヤツ不可)

2. フルフェイスのヘルメットを持っている。(半帽タイプ不可)

3. ヘルメットのシールド(バイザー)はスモーク(黒)、ミラー(CDみたいなヤツ)、歓迎。

4. 小銭を常に持っている。(余分な小銭を持ってくる方、歓迎)

5. 購入商品の貸し借りに嫌な顔をしない。

6. 部活動中の購入商品は部以外の者に貸したり、無論、あげたりしない。

7. 部員の陰口をたたかない。

8. 野生の勘、ロマンを持ち合わせている方。

9. 部員の一人がロマン爆発寸前になった時は全員集合の「男気ルール」を守れる方。

10. ドロップキック禁止。

 

 

そんな条件を出し、厳選した戦士を入部させていった『放ヘ部』(略語)。

 

さあ、君もレッツ入部!!

 

 

注:現在は募集しておりません。

当倶楽部は約2名の単独活動
主な活動になってしまった為、
閉鎖いたしました。)

 

 

 

中途半端に、終。(笑)

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