2. ナイスガイテンチョウ

寒い時期の話である。

まず初めに、この駄文は

一切の脚色を加えていないと言う事実を伝えておこう。

 

話は真冬の仕事終わりにさかのぼる。

 

 

疲れた。

長かった一日の仕事も終わりホッと一息をついたのは、午前6時。

帰れば熱い風呂とビールが待っている。

凍えた手をグローブに包み、スノーボード用のジャケットを着込み、フルフェイスをかぶる。
そして愛車にキーを差込み、エンジンに火を入れた。(注:原付です。)

仕事終わりの開放感からか、不思議と疲れが引いて行くような気がした。

 

次の瞬間、
走り始めて2〜3メートル進んだぐらいだろうか。

目映い一瞬の閃光。

 

 

まるで天津飯の太陽拳レベル。

 

「オ、オラの目が見えねえ!!」

と言ったかは定かではないが

 

それは天津飯ではなかった!

(川口探検隊風ナレーション)

 

 

ヘッドライトの電球が死んでしまったのだ。

それもこれも「昼間でもライト・オン」などという

のりピーから下された

労働基準法を無視した

徹底した独裁政治のせいである。

 

バイクに乗ってる方ならハイビームにすればいいじゃん?と思うだろうが、
今、逝ってしまわれたのは、
その「ハイビーム」なのだ。

「普通ビーム」は4ヶ月前ぐらいに逝ってしまわれた。

この4ヶ月間、人の迷惑も省みず

夜は常に「ハイビーム」。

眩しかった事だろう。
よく、車が道を譲ってくれた。(笑)

つまり今の状況は、何もつかない「無灯火」なのである。

 

まあ今はイイ。
不幸中の幸い。もう明るい。問題は夜だ。
しかも確実に今日の夜は運転する。

帰ってノンビリするという計画に、バイク屋の開店する時間まで待って修理に持って行く、という
クエストが一つ増えてしまった。

何だか急に腹が減った。

ご丁寧に腹の虫まで鳴るシマツ。

とにかく帰ろう。

 

引ききってない疲れた体で国道1号をひた走った。

 

無事に帰還し、時刻は午前7時。

とりあえず風呂に入る。
そして「めざましTV」を見ながらメシを食らう。

午前8時。

バイク屋の開店時間の10時にはまだまだ時間がある。

 

ビールが僕を呼んでいる。

 

「力がほしいか!?」と。(ARMSより抜粋。)

 

結局、ジャバウォック発動。

 

そして、暴走

 

 

10時までビールを3本呑んで、時間が来たのでそのままバイク屋に向かう。

飲酒運転であるが飲酒運転してる人はその事(飲酒)をあまり気にしない。

 

家から10分のいきつけの某バイク屋に着き、赤ら顔で修理を依頼する。

いつも何かしらの修理を頼むと、ついでにブレーキの調整もしてくれる。
今のブレーキの状態もそんなに良くはないのでかなりウレシイサービスだ。

朝早い為か店員は1人しかおらず、そのお兄ちゃんが修理をしてくれるようだ。

「キーを貸してもらえますか?」と言うので、お兄ちゃんに駆け寄り手渡すと、

「ここからは工場なので入らないで下さい!」と、怒られた。

忙しそうだったから渡しにいったのに、手痛いシッペ返しをくらった。

ちょっと憤慨。

 

 

無表情で見つめてやった。

 

 

修理が終わるまで店の中のものをブラブラと見ていると、
メガネの男とライダースジャケットを着た男が店にやって来た。

どうやらバイクのパーツを探しに来た友人同士のようだ。

しばらくすると店長がレジにやって来て、それを見つけた二人は店長に何やら交渉し始めた。

この店長は、バイク好きのかなりなナイスガイであり、とってもフレンドリーだ。
バイク好きの大人ってやっぱりカッコイイなあ、と思わせる何かを持っている。

話しを盗み聞きしてみると、
「SRのマフラーが欲しいんですけど、音って聞かせてもらえますかねえ?」とメガネ君。

「ああ、いいよ。ちょうどそこのSRに付いてるから今、エンジンかけてあげるよ。」と店長。

言うなり、店長が二人を連れて店に展示してあったピカピカにチューンナップされた

SRを店の外に持って行き、エンジンをかけ始めた。

 

ここで補足。

SRとはヤマハから発売されている400ccヨーロピアンタイプの人気バイクである。

よくわからない、と言う方はちょっと古っぽい感じの、周りに

プラッチックが付いていない(レーサータイプではない。)バイクと思ってくれれば良い。

このバイクは、セルスターター(親指一本でエンジンがかけられる。)が付いておらず、
エンジン始動はキック(足でレバーを踏み、エンジンをかける。疲れる。)のみというコダワリぶり。

しかも全体重をかけないとなかなかエンジンがかからない重いキックなのだ。

 

ひ弱そうなメガネ君がSRに乗っているとはなかなか大した物だ。

 

 

全く似合わない。

 

 

この店はガラス張りになっていて中にいても外の様子が伺える。

話しを聞いていた僕も「音」が聞いてみたくなり、店長がエンジンをかける様子を店の中から伺っていた。

二人を横に従え、バイクにまたがった店長、渾身のキック!

しかしエンジンはかからない。

キックスターターはよっぽど新車でないかぎり一発ではエンジンはかからない。

続けて2発目のキック!

まだかからない。

3発、4発と繰り返す店長。

こりゃもうちょいかかるな、と目を離した刹那、何かが横目に飛び込んできた!

 

 

 

 

??足??!

 

 

 

 

!!?店長の足!!!

 

 

 

見事にバランスを崩し、ピカピカのSRと共に崩れ落ちる店長!

 

バイクは横倒れになり、店長(ナイスガイ)は受身も取れず転落。

メガネ君とライダース君はビクッと体を震わせ、一歩も動けずに両手だけ前に。

 

店長(フレンドリー)、痛む左の肘をさすりながらバイクを起こし、更に2、3発のキック。

やっとかかったエンジンに悪態もつかず、アクセルをふかす。

 

「どうだい、この音。なかなかだろう?」

「は・・・はい。(苦笑い)」

「これはねえ、他の店にはあまりない品でねえ。そもそもこの商品は・・・」

 

店の中からは会話は聞き取れるはずもないが、きっとこんな事を話していたに違いない。

それは、メガネ君とライダース君の苦笑いと店長(大人)

肘をさすりながら微笑んで話しかけていた様子を見れば一目瞭然だ。

 

チラチラと横目でピカピカのSRの傷を気にしていた店長を見てもなおさらだ。

僕は思った。

 

 

 

 

 

店長100点満点ですっ!!(敬語)

 

 

優勝も優勝、ギネス特待生です。

 

 

メガネ君は結局マフラーを買わなかった。

理由はあえてここには記さない。

色々と詮索してみてほしい。

ただ一つ言える事は、

 

店長の転げる様はそれはもう

シャレにならないくらい凄まじかった

とだけ言っておこう。

 

 

 

一人一本背負い。(笑)

 

 

 

その後、僕のバイクの修理が終わり、代金を払い、
事件のあった現場を颯爽と立ち去ろうとエンジンをかけようとした時気付いた。

ブレーキの調整がされてない。

まあ、頼んでないので当たり前といえば当たり前なのだが、いつもはやってくれていたのでちょっとショックだった。

しかし、なかなか、いや、かなり素敵な物を観せてもらったのでヨシとしよう。

 

 

 

さらばナイスガイ。永遠に眠れ。

 

 

 

 

 

引退を考えろ。(笑)

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