33. レイノアレ

とてもツラかった仕事が終わった朝の5時半頃。
冬の朝方。

「イヤー、今日はヤバイくらいに寒かったなあ」と思いつつ、
こんな極寒地帯から早く脱出するんだ!

風呂的なモノ(風呂が僕を待っている!

レッツ・ゴー・トゥー・スクール?
(間違い)

な感じで、帰り支度をしようとマイ・バイクの元へと小走りする僕。
決して小躍りではない。(?)

そんなルンルン気分(死語)の僕は駐車場にて目を疑う。

あっれー?オカシイなー?
確かにここに置いておいた筈なのになあ?

黒光りする僕のアレ。
(バイクです)

 

いくら周りを見渡しても、その場所にあるのは
イヤに真っ白なバイクがあるのみ。

 

ハッハーン。さては奴さん、

 

 

 

凍りやがったな。

 

 

そう。僕の自慢の
テカテカに黒光りする例のアレ
(しつこいようですがバイクです)

は、あまりの温度の低さにカッツリと凍っていたのである。

 

 

それはもう、有りえないほど。

 

 

ま、この寒い季節には朝方霜が降りてるなんてのは当たり前のように起きる出来事なんであるが、
今日の凍り方はハンパではない。

ちょっとした冷凍マグロ軽く凌駕しているレベル。

流石の僕も一回ほっぺたをつねったくらいである。

 

しかし、僕は慌てず騒がず、冷静に事実を受け止めバイクを覆い尽くしている有りえない程の『霜』を取り除く為に
メットインに常備しているタオルを取り出し擦り落とそうとした。

レーッツ!コ・ン・バ・イ・ーン!!!(超電磁ロボ)」

と掛け声一つ叫びつつメットインの鍵穴にキーを差し込んだのかは
定かではない。(笑)

とりあえず僕はメットインを開けようとした。

 

 

アラ、ビックリ。

 

鍵が回らねえ。

 

何だコリャ!!

 

何故、鍵が回らんのか?
力か?!僕のパワフルさが足りないのか?!
病気がちってか??!
コンチクショウ!!!
(別に誰も言ってない)

と、フルパワーで鍵をねじ回しても全く回る気配ナシ。

これ以上の負荷を加えると鍵がねじ切れてしまいそうになる程のトルクを出しそうになったので
その場は勘弁してやった。

 

ハッハーン。さては鍵穴の奴さん、

 

凍りつきやがったな。

 

と、「ニヤリ」としても何も始まらない。

僕は慌てず騒がず、冷静に事実を受け止めバイク本体のエンジンをかけ、全体を暖める為にイグニッションにキーを挿しこみセルを回す。
イグニッションは凍り付いておらず、キーは素直に回った。

キュルキュルキュル・・・・・キュルキュルキュル

???

キュルキュルキュル・・・・・キュルキュルキュル

(焦り)

キュルキュルキュル・・・・・キュルキュルキュル・・

キュドドドドドド・・・・

エンジンはかかった。

ここで僕は勝利の一服。
仕事終わりの疲れた目にメンソールが染みるぜえ

と言い放ったのは定かではない。(二度目)

 

エンジンがかかってしまえばこっちのものである。

冬の時期、バイクや車が凍ってしまって一番危惧する事は
「もしかしてこれ、エンジンかかんねーんじゃねーの?」的な恐れである。

エンジンがかかるのならば後は機体が温まるのを待てばよい。

エンジンが発する熱で僕の何かもヒートアップである。
(意味不明)

兎に角、これが世に言う

 

『エンジンからの発熱で凍ったバイクも解凍してしまえ大作戦。
略してレンジでチン

が発動されたので僕も一安心。

勝利の一服をフィルターの根元まで存分に味わうと共にエンジンが温まるのを待つ。

 

 

5分後。

エンジンは快調に唸りをあげている。

 

しかし、何故だか
「霜」が溶ける気配が全くないのである。

これではメットインの鍵穴も凍ったままであろう。

しかし僕は至って冷静だ。

ただエンジンをかけただけでままならないのならアクセルを吹かしてよりエンジンを温めればよいのである。
フフンと僕は鼻で笑いつつアクセルを回す。

 

 

アラ、ビックリ。

アクセル回らねえ。

 

何だコリャ!!

 

何故アクセルが回らんのか?!!
力か?!?僕のパワフ(以下略)

ハッハーン。さてはアクセルワイヤーの奴さん、

凍りつきやがっ(略)

 

ここまで冷静に事を運んできた僕にも流石に焦りの色が見え隠れしてきた。

普通に 「アクセル動かないんじゃあ走れないじゃん」っていう
人として極当たり前な感想を持ってしまったからである。

例えば、このままエンジンが温まって、思惑通りにメットインの鍵穴が溶けたとしよう。
そして、中に入っているヘルメットと手袋を取り出し、いざ帰路へゴーってなっても

アクセルが回らないんじゃあどうしようもないじゃないですか。

 

え?アクセルワイヤーも一緒に溶けるんじゃないかって?
そりゃもちろん僕もそう考えましたよ。
でもね、

 

45分待ってみたけどアクセルさんったら
テコでも動きませんの。

 

もう、頑固ったらないですわよ?奥様。
ピクリともしませんの。

どうする?さあ、どうする?
押して帰るか?帰ってみるか?

 

4〜5時間かけて。

 

イヤ、ホント勘弁して下さい。
誰か助けて下さい。
と、誰かに助けを求めても朝の6時の道路っぱたには
犬とか猫とかおじいちゃんとか
明らかに助けてくれそうもない感じの人(?)しか居ないのであった。

「猫の手も借りたい」
と初めに言ったのは誰なのか。
猫がバイクを押してくれた所で一体どうなるモノでもないのではないだろうか。
全くけしからん。

あまりの寒さとやるせなさで思考回路もショート気味な僕は
怒りすら感じていた。

何故、仕事が終わってブラボーな感じの僕が
この寒い中、何も出来ずに呆然と立ち尽くしているのか。

もうアクセルが回らないとかアクセルが回らないなんて事はどうでもよい。
この泣きそうになってる僕と、この切れるような寒さをどうにかしてくれ。

頼むから誰か抱き締めてくれ。
(おじいちゃんとか以外)

 

もうホント出来ればでいいんで
ロッジとかで一組の布団の中で
もちろん裸一貫(?)で人肌で暖めてくれ。

下さい。
(女子限定)

 

そんな事、誰もしてくれる訳がないので、寒さでちぎれそうな手と心を暖める為、一先ず僕は近くにあった自動販売機へ向かった。

ハイ、そこでピーン。
ピーンときました。ピョイーン。

 

この暖かいお飲物さんをバイクに激しくブチかけたら
「とろけてトロケテもう大変」
なのでは??!
うわ!スゲエ!よくやった!僕!
イイ所に気付いたよ!!僕!

多分、誰でも考えるであろう事にやっと気付いた僕。

ホット烏龍茶のボタンをを鬼の形相で押し、マッハでバイクの元へ走る。

そして疾風のようにホット烏龍茶を激しくアクセルワイヤー部にブチかける。

まるで出来たてのように(?)立ち上る湯気。そして湯気。

うおぅ!こりゃあヤッタぞ!!
勝ったぞー!!!

興奮冷めやらぬ僕はドキドキしながらアクセルを握ってみる。

 

ヨシ!!

 

 

 

回らない!!!

 

マジで!!!??

 

それもその筈である。

よく見ると、他の部分にかけたホット烏龍茶が既にウッスラ凍っている。

 

早っ!!!

僕のナイスジャッジを裏切る驚異的なこの寒さ。
恐ろしい。末恐ろしい事この上ない。

流石に頭にきた僕は、長っがーい坂道をフンフン言いながらバイクを押し、コンビニが見えるまで直走った。
イヤ、走れてはないのであるが。

コンビニを発見した僕は駐車場にエンジンをかけっぱなしのままのバイクを
「でやー」と投げ捨て
「でやー」と店内へ。
「でやー」とペットボトル烏龍茶1リットルものを買い、
「でやー」と店を出て飲み干す。
「でやー」とまた店内に入り
「すいません、お湯貰ってもイイっすか?」と
小動物もビックリの小声で店員にお願いをする。
「いいですよ」と言われ
心の中でガッツポーズ。
1リットルのペットボトルにほぼ満タンのお湯を激しくブチこみ意気揚揚と店を出る。
もちろん「でやー」と。

1リットルもの『熱湯』を全身に浴びた
僕の黒光りする例のアレ
見た事もない程の湯気を発し

 

とてもビンビンな感じがした。
(バイクです)

 

熱湯攻撃には流石のアクセルワイヤーも溶けざるを得なかった。

カチンコチンで回る気配もなかった面白いようにアクセルがグルグル回る。

アハハハハハハ。

 

 

 

 

ワハハハハハハハ。
(笑)

 

仕事終わりから2時間も経過した所でやっとこさ帰る準備が整った。

ヨシ!エンジン全開!!
フルヴォリューム!!
目標、風呂的なモノが待っている我が家!!

テンションが上がっている時はイイ事が続くものである。
コンビニを出発してから約20分、
全く信号に捕まる事無く、アクセルは開きっぱなし。
こりゃ家に着くのも早いですぞ。
さっき泣きそう寸前だった事がウソのように清々しい気分だ。

朝日ってステキ。
と感慨深げに走っていると、ついに赤信号に捕まった。

オイオイー。テンション下がるやないかー。
今の僕は誰にも止められないちゅうねんなー。
と、謎の関西弁も交えつつ
素直に止まる準備をする為アクセルをオフの位置に戻す。

 

 

 

 

 

 

戻りませんがな。

 

 

ハッハーン、さてはアクセルの奴さん、

アクセル全開の位置で
またしても凍りつきやがったな。

 

 

 

そうなのである。

つい20分前まで熱湯だった水滴は、気温の低い中のフルスピード走行の途中で
ただの水滴に変わり果て
あげくに氷に変化しやがりました。

もう一度言います。いいですか?

 

しやがりました。

 

 

その後、僕が今まで生まれてから一度も
赤信号なんて見た事もないが如く、
赤信号の概念がわからないかの如く、
家まで走り去ったのは言うまでもないであろう。

 

 

常に頭に浮かんでいた漢字は

『死』。
(笑)

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